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望みどおりの虚構の世界 妄想歌謡劇「上を下へのジレッタ」備忘録

ありがたいことに東京と大阪、それぞれで1回ずつ観劇できました。2回でしたが席もタイミング的にも理想的な観劇ができてとても満足でした。

全部纏めようとする余計収拾がつかなくなってしまいそうなので、印象に残ったことをいくつか。

 

①スピード感

まずは何よりこれ。とにかく場面転換が多い!

舞台って、どちらかというといかに場面転換を少なくシチュエーションを変化させるか、ってところあるじゃないですか。同じセットで出演者が入れ代わり立ち代わりして違うシーンとして成立させるような。

ところがジレッタはそんなこと気にしない。バンバン転換させる。背景・セットがぐるぐる変わる。裏方さん大変!

漫画のコマが変わるように、という感想を見かけてなるほどと思いました。で、パンフレットを読むと倉持さんは手塚治虫先生の原作の表現が演劇的*1だと言っているのがおもしろい。

舞台を見る前に原作を読んだとき、ストーリーはどこを省略するのかな、なんて思ってたんですね。まさか全部入れてくるとは。さすが凡人とは発想が違う。

見始めたときあまりにずんずん話が進んでいくのでなぜか「もったいない!」という感想が出てきたし、原作読んでない人わかるのかしら?と心配になりました。

しかもほとんどのシーンでアンサンブルや何役もやるキャストの方が出揃って、毎回違う衣装で歌い踊るんですよ。裏でセットやら衣装やらどれだけてんやわんやだったんだろう。それでいてその一つ一つのシーンのクオリティの高さ。目がいくつあっても足りない。なんて贅沢なものを見せてもらってるんだろうと思いました。

 

②芸能界への視線

ジャニーズのタレントを主役にしておいて、ナベプロのタレントをヒロインにしておいて、初っ端から「列を乱すな 事務所の序列を」「口パク口パク口パクパク」ですよ。「そこらへんにいるような娘でもできる歌とダンスをされてもねえ(うろ覚え)」ですよ。ぎゃー痛い。

原作では門前が竹中プロを首になる理由は過激な演出のせいで、大手事務所のタレントの扱い云々ではないんですよね。それをあえてここに持ってきて大手事務所のタレントである横山さんに言わせる。(まさか横山さんを主役にしたのには何か裏の意味が…?とはじめ勘繰りたくなったのも仕方ない)

チエやジミーのような「Fake Star」の哀愁もあり、「アイドルの逆襲」による芸能界への痛烈な皮肉あり。これ、ジュリーさんや渡辺ミキ社長が見る機会はないんだろうか。見たらどう思うんだろう。

でもこれが、ただの悪意だとは思わないんですね。こういう面もありつつ、そういう虚構の世界に魅力を感じて離れられないのが門前だし、転落しても這い上がるのが門前だし、同時に繰り返し門前の魅力を語る倉持さんの視点でもあるんだと私は思いました。

 

③虚構の共犯者

舞台「上を下へのジレッタ」は、カーテンコールがあって初めて完成する作品じゃないか疑惑。

始まり、幕が開いて主役が一人で現れる。このときの横山さんは金を基調に原色を散りばめたコートを羽織っていて、この舞台のテーマ曲ともいうべき「虚構の共犯者」をゆっくりと歌い出す。そして横山さんがコートを脱ぎ、黒いスーツ姿になって曲がアップテンポになると同時に物語が動き出します。

“すべてまやかし すべては虚構

 「上手に騙せ」とあなたは言う

 見事 叶えて差し上げましょう

 望みどおりの 虚構の世界”

この歌詞は、虚構の天才・テレビディレクターの門前が視聴者に向けたものであると同時に、この舞台の観客に向けたものともとれる。門前というキャラクターを紹介しながら、観客へ向けた『今から虚構の世界へ案内しますよ』という宣言でもある。

だから、話自体は虚構の世界を追って破滅する男の物語なんだけど、バッドエンドだとは思わない。「おしまい」の看板が出て、幕が下りて、再び幕が開いてキャストが現れる。死んだはずの小百合チエが、チエと共に去ったはずの山辺音彦が、ジレッタに飲み込まれたはずの門前市郎が笑顔で現れ、破滅したはずの世界がそこにある。そこで観客は『これは舞台なんだ、虚構の世界なんだ』と再確認する。そして"望みどおりの虚構の世界"へ連れ去られていた観客が、虚構の創り手へ向けて拍手を送る。

虚構の"共犯者"とは誰と誰なのかというと、観客と、観客が望む虚構を提供する側を指していると考えられます。虚構と知りつつ「上手に騙せ」とエンターテイメントを求める観客に「見事叶えて差し上げましょう」と「望みどおりの虚構の世界」を差し出す製作者。観客と創り手が共犯になって作り出す愛おしい虚構空間。その完結がカーテンコールでしょう。

カーテンコールで歌われる曲がその名もずばり「上を下のジレッタ」。

"Oh ジレッタ まどろみ 夢みて 目覚めて

 Oh ジレッタ さよなら 道中 お気をつけて"

これって冒頭同様、演者からの観客に向けてのメッセージにとれますよね。

劇中何度も現実と虚構が行き来するけれど、最大のメタフィクションはこのカーテンコールなんじゃないかと思う。

倉持裕氏は天才!

 

④俳優としての横山裕

最後に横山さんについて。

横山さんの俳優としての魅力はその"存在の異質さ"に尽きると思っている。横山さんの演じる役柄はジュニア期から今に至るまでジャニーズの中で見ても一風変わった、ひねくれた役が多く、悪役も多いし、何なら後輩のバーターをよくやっていたのもその異質性ゆえという側面があると思ってるくらい。

だから極彩色の世界の中で、ただ一人だけ初めから終わりまで黒一色の異質さを放つ門前市郎という役柄は本領発揮ともいえるし、存分に発揮されていたと思います。

役者としての技術的な面で言うと、素人目にも芸達者な他のキャスト陣に比べて見劣りする部分はあるなと思いました。でも唯一無二の武器があることも確認できたなあ。そして2幕の、リエに去られてからラストまでの演技がギアを上げたかのように熱を帯びて、すごく惹きつけられたし驚かされました。

この舞台を経たことでまた何が変わるんだろうとワクワクします。(歌も!)

何より、挑戦し続ける横山さんを今後も応援していきたいと思った作品でした。

 

 

なお舞台について倉持さんが語っているインタビューで、web上で情報量が多いのはこちらなのでまだの方はぜひ。

虫ん坊 2017年05月号 特集1:妄想歌謡劇『上を下へのジレッタ』 脚本・演出 倉持裕さんインタビュー :TezukaOsamu.net(JP)

 

*1:『役者がまるで廻り舞台を歩いているように移動する間もずっとしゃべり続け、そして到着してドアを開けると中にいた人間がずっとセリフを聞いていたかのように返事したりして』